日本盲教育史研究会

掲載:2015年12月13日

最終更新:2015年12月13日

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「第4回総会・研究大会」開催のご報告

日本盲教育史研究会「第4回研究大会」を終えて

日本盲教育史研究会副会長 大橋由昌

 日本盲教育史研究会は、創立から4年目を迎え、会員数170名を超す研究会に成長し、学際的な研究成果を含めて、その真価が問われる時期になりました。本年度の第4回研究大会は、10月24日(土)に原点回帰の意味合いからも「日本最初の盲唖院」ゆかりの地で開催され、北海道から九州に至るまで60名あまりの研究者が参集しました。

 日本聾史学会の聴覚障害会員も参加されるため、今回は要約筆記通訳も用意し、聴覚障害者にも情報保障を準備しました。

 午前は、足立洋一郎氏による「戦前期盲学校の設立者・支援者」、伊藤鉄也氏による「『源氏物語』を触って読む─700年前の写本に挑戦する─」、西野淑子氏による「小西信八が見た欧米の『盲唖教育』」と題する3本の公募報告がありました。

 足立氏は、盲唖学校の創設者と年代を整理され、創立過程におけるキリスト教的及び慈善事業的な背景を述べられました。本テーマにおいては、中村満紀男氏らの先行研究を踏まえる必要があるのではと思いましたが、盲学校へ転任したばかりとのことであり、今後の実践的な研究への前向きな決意表明だったと受け止めました。

 西野氏のテーマは、盲教育の立場からも取り上げられている内容ですが、聾者側の視点からの発表だったので、新鮮な切り口のような印象を受けました。「特殊教育史」の視点で俯瞰すれば改めて盲と聾との共同研究の重要性を痛感した次第です。

 伊藤氏の報告は、先駆的研究テーマであり、興味深く拝聴しました。豊かなかな文字文化であった平安文学作品を視覚障害者が理解するためには、同じ音を表すかな文字も数種類あるので、より深く鑑賞できる可能性が広がります。ただ現実的な教育現場での活用においては、日本点字考案以前における墨字の読み書き指導の限界性が現場の共通認識であるのですから、小中学部の漢字の構成を学ぶ導入部に使えるのではないかと直感したほかには、文字を触読してみようとする試みは、中途視覚障害者などで、今後趣味の世界などで楽しむ人も出るだろうと思いました。

 午後の記念講演では、全国視覚障害者情報提供施設協会参与の加藤俊和氏が、「日本の視覚障害者を支え続けた点字出版と点字図書館」と題して、明治期から現在までの点字を主とした情報保障の変遷を通史的に概観されていました。私も点字図書館長の経験者ですので、同種のお話をしてきましたが、加藤氏は谷合侑氏の先行研究に加えて、デジタル化社会の現在までをすっきりまとめられていました。

 盲教育や盲人福祉を考えるとき、点字の存在は不可欠ですから、とても良い企画だったといえます。

 続いて、3人の研究報告がありました。

 近畿聾史研究グループの新谷嘉浩氏は、「明治期における大阪盲唖教育史」という表題で、地方紙の記事などから丹念に地元の学校創設の動きを掘り起こそうとされていました。新谷氏をはじめ各地の聾史研の活動を見ると、聴覚障害者の聾唖教育史に関心が高いことに比べ、盲の当事者の関心はといえば、残念ながらさびしい限りです。

 次に、大阪市立大学都市文化研究センター研究員の佐藤貴宣氏による「インクルーシブな学校秩序の構築過程に関する社会学的探求―小学校における全盲児の学級参画と支援の組織化を中心に」の報告で、二人の盲児の調査事例を中心にインクルーシブ教育の意義を語られました。佐藤氏は、障害学の立場から英国などにおける視覚障害者のインクルーシブ教育の文献を調査して論文を発表され、障害児をめぐる教育現象の社会学的研究をテーマに研究者の道を歩まれている方です。大阪府内の二人の視覚障害児の発達過程をビデオなどに収め、社会学的な手法により調査・分析を試みており、その社会学的方法論について語られていました。私はこの分野が不勉強なため、単に盲学校のひとりの卒業生として、佐藤氏には今後高橋秀治氏の統合教育事例の論考なども検討され、盲学校へ舞い戻るいわゆるUターン事例も検証された上で、教育現場で参考になる研究成果をあげられるよう期待したいと思いました。

 最後に登壇された関西学院大学人間福祉研究科研究員の森田昭二氏は、「中村京太郎と普選−昭和3年の『点字大阪毎日』によるアンケート調査を中心に」と題して、1928(昭和3)年に行われた初の衆議院選挙において、初めて認められた「点字投票」の有権者に対するアンケート調査結果を報告されました。アンケートは、点毎が紙上で13項目にわたる「投票における決定動機」を尋ねたもので、5459人中290人の回答を得たという。詳細な数字は省きますが、大正期から点字投票を求める盲界の強い要求運動の結果勝ち取った権利であり、盲人史の観点からも憲政史の観点からも貴重な資料だといえます。点字のみの資料だけに、なおさらです。

 点字原稿を触読されながら報告された森田氏の声を聴きつつ、点毎はもとより、古い点字のみの資料を墨字化することによって、新たな研究分野を提供するようになる、と改めて私は確信しました。

 末尾ながら、本大会の準備に奔走された京都府立盲学校の先生方や近畿地区の会員諸氏に対し、心より感謝申し上げます。

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英語:Japan Society on the History of Blind Education

エスペラント:Japana Societo pri la Historio de Blindul-Edukado(ヤパーナ ソツィエート プリ ラ ヒストリーオ デ ブリンドゥール・エドゥカード)

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